上は明治神宮。圧倒的な緑。下は新宿花園神社の酉の市。
 東京にはいろいろ想い入れがある。

 生まれは大田区だが、一歳の時から神奈川県住まい。ただ母の実家が目黒区の駒場東大前だった為、小さい頃はよく連れて行ってもらった(父の実家は既に無かった)。当時、渋谷の東横百貨店の屋上には遊園地があって、そこは絶好の遊び場だったのだ。だから都会の景色にも親しんでいた。ロープウェイがあったらしいのだが、これは生まれる前のことなので流石に知らない。父の仕事場が渋谷区にあったのも大きいかも知れない。
 それからは大学が大岡山で、渋谷はすぐ行けた。他にも輸入レコードを買う為には新宿、大学SF研の集会が御茶ノ水、様々な理由で都会を歩いた。就職してからもである。新宿レコードの藤原夫妻、亡くなったのかあ。マイク・オールドフィールドの平田として、顔は覚えてもらっていたのだが。

 上は新宿の成子天神社。駅からすぐなので、都会の真ん中です。もちろん、下のような景色も好き。渋谷にて。
 ところで就職してから東京の観光案内を買い求めてみると、これが結構面白い。七年間通った大学の近くに滝があるなんてのもそれで知ったし、逆に観光案内に堂々と掲載されている自由が丘デパートが、何度も見ているただの商店街なのにも驚いたものだ。
 それで改めて思うに、東京はかなりの人情と緑の都市なのである。砂漠なんかでは全く無い。新宿御苑、明治神宮、皇居などは言わずもがな、そもそも街のあちこちに木が植えられ公園がある。人々も優しく親切だ。少なくとも私はそう感じる。若い人達も熱心な働き者が多いように見受けられる。
 だが実は、私が本当に愛しているのはその都会のど真ん中、雑多な人々が行きかいネオンが灯るアスファルトの街である。これについてはこんな小説や、拙著「水の中、光の底」でも扱っている。教員時代、しばらく振りに新宿から新橋に回って次の日、
「久し振りに都会を歩いて、心が洗われる想いでした」
と言ったら、やはり変わった人だと言われた。
 これは田舎が嫌いという意味ではない。あれはあれで好きなのだが……それでも本当に落ち着くのは都会なのだ。やはり小さい頃から楽しいことは都会にあった為だろう。そもそも都会は、人間が自分で住み易く作った場所の筈だ。地代や家賃の問題がなかったら、案外そちらに住んでいたかも知れない。

 さて、現在住んでいる神奈川には、あそこまでの都会はない。横浜、小田原――やはり違う。ただ、手を延ばせばすぐに手が届く場所に、あの光の街がある。それでとりあえずは充分だと思う。

付記

     大島や伊豆七島、小笠原諸島、奥多摩は紛れもなく東京都である。高尾山に至っては八王子市だ。高校生の時に大島に旅行をして、あの海に囲まれた土地で「東京都立大島高等学校」の看板を見た時、改めてそれを認識したものである。山崎ハコの「BEETLE」に出て来る男の故郷ふるさとは明らかに二十三区の何処かだろうが……その二十三区内も全てが都会という訳ではない。