ヴィデオ・カメラを構えている時、我々の頭にあることは、多分そこに何がどんな風に写るかだと思います。それは撮られている方も同じで、きっと写している人自身のことなどは頭にないでしょう。
 家庭用の小型ヴィデオ・カメラの場合、変わった形もいくつかありますが、まだかなりの製品が片手で構えるようになっており、ちょうど目の高さまで持ち上げて、片目で覗くようになっているでしょう。その時、構えている人の顔はカメラに隠れて見えません。では、その時の御自分の顔がどうなっているのか、考えたことがありますでしょうか。
 で、やって見たのが右の写真です。これは出来る限り自然にヴィデオを構えた状態で表情を固定し、カメラをずらして撮影してもらったものです。私は前から、自分がヴィデオ撮影の時に歯を剥き出す癖があるのは知っていたのですが、こんなになっているとは初めて知りました。同じことを生徒にもやらせてみたのですが、彼はひょっとこのような顔になってしまいました。
 多分これは、片目をつぶることと無関係ではないと思いますから、きっと顕微鏡を使っている時とかも同じ顔をしているのでしょう。考えてみれば、片目をつぶるというのは、ウィンクをしたりする時以外は、ほとんど「何かを覗く時」ですから、大抵は顔がその「何か」で隠れており、覗く対象に集中するあまり、自分が人にどう見えるかは無防備になっています。これは直接には関係がありませんが、子供の保育園の運動会の時など、保護者席からはヴィデオ・カメラがまるで軍隊の砲列のように子供たちを狙っていて、改めて自分がその一人だと思うと、とても恥ずかしくなります。子供たちを見るのに夢中になるあまり、その時の自分がどう見えるかに気を使っていないからでしょう。
 何かを「見ている」人を逆にこちらが「見る」時、そこにはいろいろなものが「見えて」来ます。