砂丘占い――デューンのタロウ・カード

「デューン 砂漠の救世主」より

絵とデザイン 平田真夫


     啓示? そんなもの、ありはしない。ただ、私がいるだけだ。
      ――神皇帝レト二世がダンカン・アイダホに語った言葉
 デューン・タロウ――砂丘占いとは、砂の惑星アラキス(現在のラキス)において発明された、一種の予言用カードのことである。古代地球のタロウ・カードと同じく、そこにはそれぞれ象徴的な意味合いを持った一連の寓意画が描かれ、占者はその配列と関連から未来を読み取る。この小論の目的は、カード一枚々々の意味を実際に示し、具体的な占法の紹介を試みることにある。したがって、まずは頻出するなじみのない単語を解きほぐすことから始めねばならないと思うが、占術を確実に習得したい方はムアドディブの誕生からその死までの伝記、特に大革命以前の歴史とアラキスの習慣について研究することをおすすめする。砂丘占いについて知ることは、すなわちムアドディブとアラキスについて知ることに他ならず、実際にアラキスに触れることの不可能な我々にとっては、かのイルーラン姫による記録こそまたとない指標となるものだから。
 さてところで、今筆者はデューン・タロウの起原そのものについて深く立ち入るつもりはない。それはベネ・ゲセリットに始まるとも、フレーメンに始まるともいわれる。当時のことを(それも非常に消極的な意味において)知る者がかのダンカン・アイダホただ一人になってしまった今では、くわしいことはもちろんまったくわからない。デューン・タロウは皇帝ムアドディブの統治とともにアラキスに現れ、その崩壊と同時に消えていった。全体を支配する思想は一貫してアラキスのムアドディブ信仰であり、皇帝ポウル・アトレイデを取り巻く状況がその要である。それに対する解釈は、おそらくそれぞれの持つ立場によって変わりうるものだから、実は起源に関する問題を未解決のままにおくことは非常に危険なことかも知れない。「砂虫」という言葉一つとっても、それを「シャイ・フルド」とするか単なる「ウォーム」とするかによって、全く異なった意味を持ってしまうのだ。ただ、これは見方によっては、デューンに限らず一般のタロウ・カードの解釈がかなり占者自身に任されているという点で、むしろ有利であるともいえる。なんといっても、予知とはカードがするものではなく人間がするものなのだから。

 では、カードの解説を始めよう。デューン・タロウは通常二十三枚の「大アルカナ」と、六十枚の「小アルカナ」で構成されている。このうち小アルカナのほうは、「カップ、(水、すなわち生命の力)」、「香料袋(メランジ、すなわち富の力)」、「クリス・ナイフ(剣、すなわち権力の力)」、「宇宙船(船、すなわち集団の力)」の四つのスートに別れ、それぞれが一から十までの数札と、「王」、「女王」、「王子」、「戦士」、および「軍師(メンタートのことか)」のコート・カードを持ち、これで六十枚になっているわけだ。小アルカナは何かの意味を持つ札というわけではなく、もともとは四つの力とその勢力状況をあらわしている。例えばカードの展開の上でカップの枚数とその数字の合計が大きかったとすれば、これは生命力の強さを示すことになり、コート・カードはそれとは別な、それぞれの意味合いから発展した「人間」を象徴するものである。いずれにせよ、これを八十三枚すべて使うことになるとすれば、おそらく大変な熟練が必要になるであろう。
 そこでここでは二十三枚の大アルカナのみを解説し、それを使った占法を試みるわけであるが、まず「アラキス」と書かれた無番号の札(右図)は何の意味も持っていない。これは「場」を支配する象徴カードである。したがってこのカードについては、実際のカード展開の時に説明する。残りの二十二枚こそが真の意味カードであり、その象徴は次のとおりである。

    0.盲人
    I.ベネ・ゲセリット
    II.皇妃とIII.妾妃
    IV.皇帝
    V.クイサッツ・ハデラッハ
    VI.恋人
    VII.サルダウカー
    VIII.サダス
    IX.バラカ
    X.時
    XI.砂虫
    XII.ゴム・ジャバール
    XIII.砂丘
    XIV.アバ・ローブ
    XV.大いなる母
    XVI.サンドクロウラー
    XVII.リザン・アル―ガイブ
    XVII.太陽とXVIII.月
    XX.真実審判師
    XXI.アラム・アル―ミタール

 一通りおわかりいただけただろうか。それでは次に、カードの展開の仕方について説明する。ここでは「砂丘の渦」と「フレーメンの心臓」、および「砂丘のピラミッド」占いを紹介することにする。多少難易の差があるので、簡単な順に並べてみた。最初の方から順に練習していくとよい。

    砂丘の渦
    フレーメンの心臓
    砂漠のピラミッド

 いずれにせよ、元来がタロウ・カードというものは、カード自身の力ではなく、占者の霊感に頼る占法である。カードの絵はそれ自体抽象的な意味しか持ち得ず、占者はそこから自分の力で何かを読み解く。デューンのタロウ・カードは、地球の原初カード占い以上にその傾向が強い。「メランジ」と呼ばれるスパイスの助けなしにこのカードを使うのは、事実上ほとんど不可能である。とはいえ、多少なりともアラキスとムアドディブについて触れる場合、このカードが絶好の助けになるのも事実なのだ。皆さんの理解の一助にでもなれば幸いである。


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