楽器に関する覚え書き

フルート――flute


 フルートを買った理由。一つめ、ピアノは持ち運びが出来ないので、何か可搬性のある楽器をやりたかったから。二つめ、ピアノは機械が直接音を出してしまうので、そうでない楽器が欲しかったから。三つめ、かっこいいから。
 三つめはまあ、説明しても仕方ない。問題は最初の二つである。まず可搬性の問題だが、概してキーボードと言うのは自分の楽器が持ち歩けない。最近でこそ軽くて小型の電子楽器もないではないが、それだってケースに入れれば結構なサイズだ。とてもカバンに入れてちょっとというわけには行かない。その点、フルートならちょっとした時に自分の楽器を自慢出来る。
 とはいうものの、最初に買ったのは一番安いモデルで5万円くらいだったか。とても人に見せて、「いいだろう」といえるようなものではなかった。それで結婚する直前に買い替えたのだが、これは20万円余り。どうもフルートは、見掛けよりも値が張るようである。それで、折角だからとフレンチ・モデルを購入したのだが、これが少々苦労の種になってしまった。
 フレンチ・モデルというのは、穴を塞ぐタンポの真ん中に更に穴があって、指でその穴の開け具合を調節して微妙な音程を出すようになっている(普通はここに穴はない)――はずなのだが、そうはうまくいかない。実際には穴に指の隙間が出来ると、音がかすれるのである。それで、かなり練習をしないと、そもそも音が出ないことになるのだ。で、自分の結婚式の最後に、なんと新郎・新婦による合奏などというとんでもない企画を立てたのだが、この冒頭にフルートを吹いて恥をかいてしまった(本当は、能管に持ち替えた後に、更に爆笑を買ってしまったのだが)。

 話がそれてしまった。二つめの理由、間に機械を介在させずに音を出す楽器であるということだが、要するに管楽器とは「声」の延長なのだ。それでまあ、いろいろと言われていることはあるが、ピアノと対称的な点が二つある。和音が出ないことと、音が持続することである。そしてまた、これは人間が歌う時の特徴そのものでもある。
 別の所にも書いた通り、私は歌が苦手だ。本当ならこれこそが音楽の原点なのだろうが、いかんせん声が悪いのはどうしようもない。今年(宇宙暦28年)の文化祭では、何と中庭で大道芸人よろしく弾き語りをやってしまったのだが、後でヴィデオを見返してみてがっかりした。それほど下手なのである。その点、管楽器を演奏するのは、そこそこ気持ちよく息が出せて、声で恥をかくこともない。キーボードと管楽器は、私にとって音楽の表と裏なのかも知れない。

宇宙暦28年12月19日)


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