楽器に関する覚え書き

鉄琴――glockenspiel


 鉄琴といっても、ジャズにも使うヴィブラフォンではない。もっと小型の、グロッケンの方である。
 どうもこの楽器の定位置というのがよくわからない。確かに近代のオーケストラなどには出てくるのだが、クラシックの主流になってるとはどうも思えないし、ポピュラー系ではなおさらだ。学校の音楽教育などでは、むしろ木琴の方がよく使われているだろう。だいたい音が通り過ぎるし、きらきらしていて和音がきれいに出ないので、複数のグロッケンによる合奏と言うのもあまり聞かない。鼓笛隊などでは使うのだが、あれはベルリラという別の形の楽器である。
 にもかかわらず、気に入っている楽器の一つだ。ミニマル・ミュージックでは非常にいい効果が出せる。これもマイク・オールドフィールドなのだが、「チューブラー・ベルズ」の冒頭のあの有名なテーマは、グロッケンとピアノで美しく演奏される。確か最初に実物を見たのは、高校のブラスバンド部の人に見せてもらった時だ(私はこういう部活には、入ったことがない)。いわゆる「ばち」のことを「マレット」というが、それで叩いた楽器は、よく通る済んだ音色を出した。ただ、演奏はそう簡単ではなく、実際にメロディを出すのはかなり練習がいりそうであった。
 それで、いつか自分でも手に入れようと思っていたが、結局は就職してから衝動買い。1万円くらいだったかな。多分、そんなに高級品と普及品の差もないのだろう。
 さて使い方であるが、今は子供が叩いている。自分では、グロッケンの音が欲しい時はSY77で出せるし、その方が演奏も楽である。こういった打楽器系の音は、サンプリングのおかげで結構再現性がよくなった。どうも、シンセサイザーの導入は楽器の音に対して安直になる結果を産んだようである。考えてみれば、「ゆきねこ」を作った時なんか、まだピアノも持っていなかったので、わざわざテープ・レコーダーを抱えてピアノ教室まで借りに行ったものだ。いや、パイプ・オルガンの音が欲しくなって、教会まで行ったこともある。
 考えてみれば、フルートなどと違って、鉄琴は明らかに「音」が欲しくて買ったのだが、実際にはあまり活用出来なかった。もっと早く、学生時代に手に入れていれば、SF研の映画などで、いろいろな効果が出せたのだろうが――。何だかもったいないことをしたものである。

宇宙暦28年12月17日)


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