オカリナを塗る


 まあ、全く我ながら好きだなあ、と思いつつ、今度はオカリナの塗装である。
 実は持っていたプリマのオカリナは、どうもデザイン的に気にいらない部分がある。表面に穴の音名が掘り込んであるのだ。吹いている時に見るわけもなし、練習すればすぐにいらなくなる表示である。それに、ここのところの蒔絵に対する凝り具合から言って、自分のデザインしたオカリナが欲しくなるのも当然だ。本当のことを言えば、オカリナを塗るためのセットというのはちゃんと売っていたのだが、今までいい意匠を思いつかなかったので手が出なかった。しかし今は、蒔絵と言う武器がある。そこでやっとこさ挑戦することになる。

 まず、プラモデルのパテで前述の音階マークやメーカーの表示を埋める。ちょっと疑問なのは、果たして焼き物の釉薬にパテが着くのかどうかだが、これはやってみるしかない。長い間には剥がれる可能性もあるけれど、それを言えばカシューだとて同じことであるわけだし――。
 こうしてパテが固まったらやすりで表面を綺麗にし、まずは黒漆を掛けた。対象にしたオカリナは、まず一番音の高いC管、これは小さいから首に下げて持ち歩きやすいので、SF大会にでもアクセサリーとして持って行こうかとしたものだ。ただ問題は、全体に一辺にカシューを塗ると、持つ所がなくなってしまうこと。銅粉を蒔く時は一度にやりたいので、分けて塗ることは出来ない。そこで一計を案じて、歌口の所はそのままにして後で朱にすることにした。ついでに表面に模様を入れて、何となく魔術っぽいものにしよう。そうだ、これはあの「ソロモンの笛」ではないか。
 と計画は格好良かったのだが、実際には朱を入れ過ぎて全体的に赤くなってしまった。更に、アレイスター・クロウリーの反キリストのマークを入れたかったのだが、これが小さく書くのは大変に難しく、何度やっても上手くいかない。そこで、蒔いた銅粉は泣く泣く諦めて全て塗りつぶし、朱を入れなおした。反キリストマークは、相変わらず何度やってもうまく行かない。これは後で入れることも可能な訳だから、一応ここで完成とする。名前は「降魔」とでもしておこう。

 二つ目はやや大きいG管である。これは元々音が悪く、そもそも「大黄河」を正しい調で吹く以外には余り役に立たない。店などで見ると、オカリナの中心はF管のようで、これは大きさとか音域の問題からこうなるのだろう。元々そんなに音域の広い楽器ではないので、中心のハ音を真ん中に置くと、多分そうなるのだ。しかし綺麗に塗りなおせば、少しは吹く気にもなるだろう。
 それでこちらは、全体を黒で塗って銅粉を蒔き、穴の中だけを朱で塗ることにする。明らかに能管篠笛を意識した色使いだ。名前は「みやび」とする(実は妻がそう呼んだ)。
 しかしこれは難しかった。「降魔」のところで書いたように、全体を黒く塗って一度に銅粉を蒔こうとすると、持つ所がなくなってしまう。仕方なく、首に下げる留め金に凧糸を付けてぶら下げ、その上で作業をしてみたが、くるくる回ってしまって言うことを聞いてくれないのである。
 それでもどうにかこうにか出来上がったが、吹いてみたら音が鳴らなくなってしまった。歌口にカシューが流れ込んで、塞いでしまったのだ。それを細い針金で突っつき出し、空気を通すようにしてもやはり鳴らない。どうやら、微妙な角度を変えてしまったらしい。そこであっちを剥がしこっちを剥がししているうちに、何とか鳴るようにはなったが、今度は塗装がぼろぼろである。已む無くもう一度塗りなおす。今度は歌口に気をつけて――。
 結果として色はどうにかなったが、どうも音が悪い。前述のように元々鳴りが悪いので、最初と比べてどうだったかも判らない。こんなものだったような気もする。困ったものである。まあ、余り吹かないから仕方ないとするか。

 ということで、今は一番使うF管を塗ろうかと思っている。それが終われば、一番大きなC管もいずれはやることになるんだろうなあ。

 ところで最近気がついたこと。オカリナは、何と能管の曲が演奏出来るのである。もちろん音域などの問題はあるが、吹き方の強さによる音程の変化と、かざし指が使い易いこと、強く吹くとヒシギのような音が出ることなどの為、それらしくすることは出来る。これにはちょっと驚いた。今度、リコーダーで試してみよう。

宇宙暦41年3月9日


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